土曜日の深夜に。日曜日の昼間に。映画にどっぷり浸りたい。そんなあなたを、映画コラムニストの新谷さんが、素敵な映画へナビゲート。今回のテーマは“素敵な部屋が出てくる映画”です。「仕事も学校も、世の中が動いていくのが目に見える季節は、何かを始めたくなったり、整えたくなったり、心がワクワクします。そんな日々の暮らしのなかで、何かひとつでもインテリアを変えてみると、それだけで気分一新! 今回はインテリアの参考にしたくなるような映画を3本ピックアップしました」(新谷さん)
住む場所を通して人生というものがわかる
『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』
たとえば、花を生けるのに花瓶が欲しいなと思っても、ガラスがいいのか陶器がいいのか、そもそもどんなデザインが部屋にしっくりくるのか、花瓶ひとつとっても迷ってしまう。そんな時に参考にするのは、雑誌だったりインスタだったりカフェだったり……情報源は色々あります。もちろん映画のなかにだってヒントがある。
この『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』という映画は、ベテラン俳優モーガン・フリーマンとダイアン・キートンが夫婦を演じているドラマです。この夫婦が、結婚してからずっと住んでいるブルックリンのアパートメントは、眺めが良い、日当たりも良い、けれどエレベーターがなくて、年齢的に階段は大変になってきたね……と引っ越しを考えている。売っちゃう? どうする? って、住む場所を通して人生を見つめ直していきます。
また、ふたりがどんなふうに出会って、どんなふうに人生を送って来たのかは、彼らが住む部屋が物語っていて。部屋がもう一人の主人公でもある。ああ、素敵な住まいというのはこうやって月日と共に作り上げられていくのねって、参考だらけなのです。
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世界観にどっぷり浸れるインテリアが登場
『時計じかけのオレンジ』
言わずと知れたスタンリー・キューブリック監督の名作ですが、作られてから半世紀も経っているので(公開は1971年)、タイトルは聞いたことあるけど……という人、きっと多いと思います。
この物語の時代設定は、制作当時から見た近未来。曲線的、宇宙的、といった未来感あるデザインから、レトロ感あるミッドセンチュリーデザインまで、多種多様なインテリアが登場します。そんな世界観をまるごと真似するのはハイレベルですが、部屋の一画だけ『時計仕掛けのオレンジ』的にしてみるとか。たとえばイームズチェアのような曲線的な家具を取り入れたり、手軽に挑戦できるクッションなどの色や柄で遊んでみたり。そんなアクセントになる参考アイテムが詰まっています。
そして肝心の物語はというと……実はとても刺激的というか、問題作です。主人公のアレックスは、喧嘩とレイプに明け暮れているような非行少年ですから、暴力的なシーンも多い、女性にとってショッキングなシーンもある。けれどその背景には、なぜ暴力がいけないのかという問いかけはもちろん、自由と支配、善と悪、愛情、裏切り……いろいろ考えさせられる。やっぱり名作なのです。
あたたかい兄弟愛と北欧インテリアが素敵な
『シンプル・シモン』
ひとことで言うと、ぎゅうって抱きしめたくなるような、あったかいスウェーデンの映画です。何がそこまであったかいのかというと──兄弟愛ですね。また、「好き」ってこういうことだよね、という感情をとてもチャーミングに描いている。
主人公はアスペルガー症候群のシモン。人に触れられるのが苦手で、彼の生活のなかには色んな決まりごとがあります。それが少しでも崩れてしまうと自分の殻に閉じこもってしまう……。シモンのことを理解してくれるのは兄のサムだけ。けれどシモンの言動が原因でサムは恋人に振られてしまいます。大好きなお兄ちゃんを立ち直らせるためにシモンが思いついたのは、兄にとって完璧な恋人を探すこと。その一生懸命さに心打たれますし、兄のために声をかけた女の子イェニファーのことが気になっていく感覚も可愛らしい。
もちろんインテリアも素敵! 北欧テイストといっても多種多様ですが、この映画には、ウィリアム・モリスっぽい自然や鳥を描いたものもあれば、幾何学的なテキスタイルもある。いろんなタイプの北欧インテリアを見ることができます。
映画から素敵なお部屋のヒントを見つけて
映画からインスピレーションを受けて、お部屋作りする週末って、とても素敵ですよね。どんなインテリアを新調する? どんなテーマのお部屋にする? そんなことを考えながら、素敵な部屋が登場する映画を楽しんでみてください。
◎文/新谷里映 ◎イラスト/moeko