2023.07.12

【週末“非日常”TRIP】佐賀県・唐津で焼きもの巡りを楽しもう!

 

佐賀県といえば、器好きなら誰も必ずや訪ねたい土地。有田、伊万里などは特に有名な産地ですが、今回訪れたのは、古き良き街並みにも味わいのある唐津。

 

ちょうど「唐津やきもん祭り」が開催中の時期でした。その様子はもちろん、器の素敵な飲食店や陶芸の窯元、唐津焼を買える店など、器をテーマに唐津を巡る旅をご紹介します。

 

 

唐津の街が焼きもので溢れるイベント「唐津やきもん祭り

 

全国各地で焼きものや工芸のイベントは多数開催されおり、毎回どこへ行こうか悩ましいところです。有田や栃木県益子の陶器市などは物量も多く、毎年大勢の人が一気に押し寄せる人気イベントですが、その分ものすごい混雑も覚悟しなければなりません。

 

 

「唐津やきもん祭り」は、2023年で11回目の開催となる比較的新しいイベントです。

 

唐津の街中や市街地にあるギャラリー、旅館、カフェ、文化財の建物、器の窯元など、さまざまな場所に緩やかに散らばって展示が行われており、ぶらぶらと散策しながら、味わいある建物や街並みの風情も一緒に楽しみつつ、ゆっくり落ち着いて器選びができます。

 

 

有田や波佐見などの陶器市は大きな企業が製造する量産品も多いですが、唐津は基本的に個人作家ばかり。作品の個性も豊かで、何代にも続く歴史的な窯元から、温故知新を探って新しい風を送る若手の作家、従来の唐津焼に囚われない自由な作風で表現する作家など、さまざまな作り手がいます。

 

作家本人が在廊していることも多く、ものづくりに対する思いや苦労、制作の裏話など、作家と気軽に交流しながら、自分だけのお気に入りを丁寧に吟味して選ぶ、という楽しみ方があります。ディスプレイが凝っていることも多いので、器使いやインテリアの参考にもなります。

 

2023年の「唐津やきもん祭り」は終わってしまいましたが、秋には「窯元ツーリズム」というイベントもあるそうなので、こちらも要チェックです。

 

・唐津やきもん祭り

HP:karatsu-yakimon.com

開催地:唐津市中心市街地

開催日:毎年GW期間中に開催。(第11回は2023年4月29日~5月5日)

 

 

器と料理の華麗なるコラボレーションを堪能

 

「唐津やきもん祭り」では、陶芸家と飲食店がコラボした料理イベントも多々開催されます。今回私たちが訪問したのは、和食店「ほっこ屋植月」と鳥巣窯(とりすがま)・岸田匡啓さんとのコラボ。料理は全て岸田さんの器で提供されます。

 

 

お店では普段は白ベースの磁器を使うことが多いそうで、岸田さんの器にのせることで毎回新しい発見があり、料理の表情が変わることが楽しい、と店主の植月あつこさん。

 

季節感を大切にした繊細な味わいの見目麗しいお料理はどれも滋味深い美味しさで、お酒とも相性ぴったり。お酒好きだという岸田さんの器とも絶妙にマッチしていました。

 

・ほっこ屋植月

住所:佐賀県唐津市木綿町1965

電話:0955-72-2349

 

・鳥巣窯

HP:masahiro-kishida.jp

 

唐津は美食の街。美味しい店は他にもたくさんあります。夜に向かったのは2022年にオープンした「たまとり」。福岡に「台所 ようは」「食堂ミナトマル」をオープンし、料理家・食空間演出家として多方面に活躍する大塚瞳さんプロデュースによるレストランです。

 

写真提供:たまとり

 

店を切り盛りするのは料理長の伊藤真衣さん。器は全て唐津出身の陶芸家、中里花子さんの作品(後述でご紹介)。

 

料理長自ら唐津中を回り仕入れをした食材の料理を楽しめます。佐賀のお酒をはじめ、焼酎やワインも多数そろっています。事前予約がおすすめですが、ふらっと一杯立ち寄る方もちらほら。様々に利用できます。新店ながらすでに街に溶け込み、地元の人々に愛されているお店でした。

 

・たまとり

住所:佐賀県唐津市京町1783  1F KARAE

電話:0955-73-8800

Instagram:@tamatori_karatsu

 

朝は早起きして「川島豆腐」へ。唐津へ来たならば、やはりここは外せません。江戸時代には唐津城藩主に豆腐が献上されたという、創業200年の老舗豆腐店が運営する料亭です。

 

 

朝食では、豆腐尽くしのコース料理が食べられます(完全予約制)。特に注目は、素材を吟味して作られた出来立てのざる豆腐。

 

大豆本来のコクのある奥深い旨みとふっくらとした癒やされる香り、繊細で滑らかな舌触りがたまりません。そして揚げたての厚揚げは、サクサクっと軽やかに香ばしい食感で、胃の中へ小躍りするように、あっという間に消えて行きました。

 

これらはおかわりも自由! なんとも嬉しいサービスです。そして使っている器はもちろん唐津焼で、主に隆太窯のものが多いとのこと。美味しい豆腐料理と美しい器で至福の時間を過ごせます。

 

・川島豆腐

住所:佐賀県唐津市京町1775

電話:0955-72-2423

HP:zarudoufu.co.jp

 

・隆太窯

HP:ryutagama.com

 

 

器をもっと深く楽しみたいなら、ギャラリーや窯元へ

 

唐津の街中から車で15分ほど内陸へ入ったところに、ひっそりと静かに佇む「うつわギャラリー 唐津草伝社」があります。看板などは何もなく、入り口にはらりと舞う白い暖簾が目印。明治時代に建てられた築100年を超える趣ある木造家屋は、国の登録有形文化財に指定されています。

 

 

店主の原和志さんは菓子職人で茶人でもあり、地質学に詳しい博識な方ながら、謙虚で穏やかな物腰で、いつも優しく客人を迎えてくれます。

 

扱う器は唐津に関係する作陶家のもの。値段や作家名に左右されることなく、本質的な目線で自分の好みを選べるよう、ディスプレイには工夫が凝らされています。

 

まるでコンシェルジュのような存在で、器のこと、唐津のことを丁寧に教えてくれますので、もし唐津焼に興味があるのなら、まずはここに来てみては。器を通して唐津の文化、日本の美意識を深く体感することができるギャラリーです。

 

 

・うつわギャラリー 唐津草伝社

住所:佐賀県唐津市北波多徳須恵1030-3

電話:0955-64-3540

Instagram:@soudensya.official

 

唐津にはたくさんの器作家の窯元が点在しています。作り手に直接会うことができたり、作る様子を少し覗けたりするのは、この地域ならではのお楽しみです。

 

今回訪ねたおひとり目は、浜野まゆみさん。名護屋城跡からもほど近い工房で作陶されています。眼下には、豊臣秀吉が朝鮮半島へ向かうためにたくさんの船を集めたといわれる名護屋浦が見渡せ、大変眺めのよい場所。

 

 

華奢で気品のあるフォルム、繊細で可憐な筆使いの作品が魅力的な浜野さんですが、大学時代は日本画を学ばれていたそう。しかし眺めて楽しむアートピースよりも、暮らしに寄り添う工芸のほうが自分には向いていると感じ、有田の窯業大学校へ。

 

ある時、博物館で古い器を直接手に触れる機会があり、今まで触ったことのない不思議な感覚に衝撃を受けたそうです。よくよく調べてみると、現在ではもう作られていない古い技法でした。それ以来、浜野さんは古来に行われていた糸切成形という技法を、まるで考古学者のようにコツコツと探求し続けています。

 

 

「私の展示会は研究発表みたいなものかもしれないですね」と笑う浜野さん。昔の人の作り方を丁寧に辿っていると、だんだん作り手がその時何を考えていたか分かるようになってくる、それがすごく面白い、と言います。

 

昔の技法で形を作り、細やかな絵付けを施し、登り窯で焼くため、大変な手間と時間がかかり、一度にあまり数はできません。浜野さんの作品に出会えることはなかなか少ないのですが、もし見つけたときはぜひ、そんな作り手の想いを感じてみてください。

 

・浜野まゆみさん

Instagram:@hamano_mayumi

 

もうひとり、陶芸家の中里花子さんを訪ねました。緑生い茂る森の中に工房があります。中里さんは唐津出身ですが、一般的にいわれる唐津焼の作風とは違い、すっきりモダンで軽やかな印象。どこか無国籍な風情があり、どんな料理にもさり気なく寄り添ってくれそうな、懐深い器です。

 

 

アメリカで長く生活し、現在も2拠点で暮らす中里さん。海外で暮らしたことで、日本の器のバリエーションの豊かさ、料理とのバランスの良さやリズム感など、日本独特の文化や美意識に改めて気付いたそうです。

 

「日本は自然が豊かで四季もあり、日本人は自然との結びつきが深いと感じました。野に咲く草花を見て、きれいだなって思うような日常の生活もアートだと思います。私も自然が大好きで、そんな自然への敬意から作品のインスピレーションを得ることも多いです。器は使ってなんぼなので、暮らしの中で心が浮き立つような、使い手が楽しい気持ちになる器を作りたいと思っています」と中里さん。

 

 

工房の隣にはショールームがあり、器を手に取って選ぶことができます。オープン日はHPでご確認を。工房のまわりでは、中里家の猫たちがのんびりと森の中を散策していました。

 

・Monohanako(中里花子さん)

住所:佐賀県唐津市見借4838-20

電話:0955-58-9467

HP:monohanako.com

 

 

ちょっと遠出して、秀吉ゆかりの名護屋城跡と黄金の茶室を体験

唐津市内から車で30分ほどの海を見下ろす高台に、名護屋城跡があります。

 

豊臣秀吉が朝鮮半島へ向かう前線基地として築いた大掛かりな城で、周辺には名だたる武将が集まり、広大な城下町ができて繁栄を極めたといわれます。秀吉の死後廃城となり破却されましたが、そのままの状態で石垣が残っています。

 

本丸跡まで上ってみると、抜群の眺めに驚き! 元は城下町だった町並みが眼下に広がり、遠くには玄界灘を見渡せて、最高に気持ちのいい場所です。天下人だった秀吉の気持ちが少し分かるかもしれません。城をよりリアルに感じたいなら、VRを使った「バーチャル名護屋城」というサービスもあります。

 

 

城跡に隣接する「佐賀県立名護屋城博物館」では、名護屋城や日本列島と朝鮮半島との交流の歴史をテーマに展示が行われています。そしてここの目玉は、2022年より公開されている「黄金の茶室」。

 

天下人で茶人でもあった秀吉が造らせた、全面金箔貼りの豪華絢爛な幻の茶室が復元されています。京都や静岡にも復元茶室は存在するのですが、実際に中に入ってお茶をいただけるのは現在ここだけです(体験プログラムとして実施、有料)。

 

 

いざ茶室を拝見すると、あまりにも現実味がなさすぎて、目の前にあることが嘘みたいです。秀吉はこの茶室で、一体どんな気持ちでおもてなししていたのでしょうか。

 

ギラギラとド派手なイメージばかり持ってしまいがちな黄金の茶室ですが、実際に中に入ってみると、どことなく品があり、不思議と落ち着きます。当時のろうそくの光をイメージして照明を落とし、暗闇の中にふわりと浮かび上がった様子は、幻想的で荘厳な趣があります。

 

お茶を点てていただくのは、佐賀を代表する著名な作家の器。学芸員による解説もあり、茶道初心者でも大丈夫です。

 

・佐賀県立名護屋城博物館(黄金の茶室)

住所:佐賀県唐津市鎮西町名護屋1931−3

電話:0955-82-4905

HP:https://saga-museum.jp/nagoya/

※「黄金の茶室体験プログラム」の日程や詳細はHPをご覧ください。

 

 

街の中心で快適にステイできるアートなホテル

 

今回唐津で泊まったのは、JR唐津駅から徒歩2,3分、街の中心に位置するホテル「HOTEL KARAE(ホテル カラエ)」。ここは、ショップやレストラン、映画館、シェアオフィスなども集まった複合施設「KARAE」の中にあります。

 

写真提供:HOTEL KARAE

 

風光明媚を表す“白砂青松”を建物のカラーコードにあしらい、唐津の代表的な景勝地「虹ノ松原」をイメージ。元は酒蔵だったというこの場所の記憶を残したいという思いから、世界中から来たアーティストが、酒蔵で使われていた欄間や看板などにアートを施し、館内のあちこちにディスプレイしています。

 

各部屋には、唐津和紙の作り手「紙漉思考室」が制作した手漉き和紙のアートピースを飾るなど、唐津の歴史文化を新しい形で紹介し、未来へ繋げていくことを試みています。客室はミニマルで落ち着いたしつらえ。

 

カジュアルなドミトリータイプもあり、幅広い世代が心地よく利用できそうです。1階のカフェ「KARAE TABLE」では、新鮮な地元の旬のオーガニックな素材を使った料理やデザートが楽しめ、使われている器ももちろん唐津焼。コーヒーカップは好きなデザインを選べます。シンプルモダンな作風が多く、一味違った唐津焼の新しい風を感じることができます。

 

写真提供:HOTEL KARAE

 

・KARAE

住所:佐賀県唐津市京町1783

電話:0955-72-3278

HP:karae.info

 

器をテーマに盛りだくさんの唐津旅。JR唐津駅へは、佐賀、博多、長崎の各駅から電車でおおよそ1時間半〜2時間くらい。車であれば約1時間〜1時間半、とアクセスは便利。雰囲気ある街をただ散策するだけでも楽しいので、ぜひ訪ねてみてください。

 

 

◎撮影&取材&文/江澤香織

◎取材協力/佐賀県

店舗情報、商品情報は取材時のもので、記事をご覧になったタイミングで変更となっている可能性があります。

 

 

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STORY of WEEKEND | A literary day with glasses 齋藤飛鳥

  • ◆本とメガネのある暮らし。
  • ◆週末コーデに、「メガネ」を掛け算。
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