2021.10.19

映画コラムニスト新谷里映の週末、おうち映画で。【“コーヒー”な映画】

土曜日の深夜に。日曜日の昼間に。映画にどっぷり浸りたい。そんなあなたを、映画コラムニストの新谷さんが、素敵な映画へナビゲート。今回のテーマは“コーヒー”です。「ほっとひと息つきたい時、仕事の打合せ、友だちや恋人とおしゃべり、読書や考え事をしながら……どんな時でもコーヒーがあると、その空間がとても居心地よくなるものです。そんなコーヒーにまつわる映画を3本ピックアップしてみました」(新谷さん)

 

 

お洒落なモノクロ映画『コーヒー&シガレッツ』

コーヒーの映画といえば──必ずと言っていいほどタイトルが挙がる『コーヒー&シガレッツ』。ジム・ジャームッシュ監督の作品です。モノクロであることがまずお洒落。大きな事件が起きるわけでも問題が解決するわけでもない、カフェでコーヒーを飲む人たちの他愛ない会話を綴っていく、ただそれだけの映画ですが、その世界観がなんとも心地よくて。何ていうか、映し出されるカフェに自分もいてコーヒーを飲んでいる感覚とでもいうのでしょうか。隣の席の人の会話って時々聞こえてきて気になるじゃないですか、そんな感覚がこの映画にもあります。

 

ジャームッシュ監督は「役者の組み合わせを考えるのは楽しかった」と語っていて、たしかにトム・ウェイツとイギー・ポップ、ビル・マーレイとRZAとGZA、スティーヴン・ライトとロベルト・ベニーニ……多彩な顔ぶれです。監督自身が出演してほしいという人に話を持ちかけて、承諾を得たら台本を書いて、そして撮影をする。そうやって撮っていったそうです。

 

映画の設定もカメラの構図もシンプルですが、面白いのは、テーブルの真上から撮る、コーヒーで乾杯する、などでしょうか。やっぱりジャームッシュ監督のセンスって凄いのよね、と惚れ惚れします。

 

 

人と人との絆に感動する『バグダッド・カフェ』

34年前の映画なので、タイトルは知っているけれど映画は観たことないなぁという人、多いと思いますが、デジタルに慣れてしまった今の時代こそ、この『バグダッド・カフェ』のようなレトロさや色合いは新鮮に映ると思いますし、時代を問わず響くテーマが描かれています。

 

主人公は、夫と喧嘩してさびれたモーテル“バグダッド・カフェ”にやってきたジャスミン。最初は宿泊客でしたが、滞在するうちに、ホテルの掃除をしたりカフェの手伝いをしたり、そこに集う人たちと親しくなっていきます。特にカフェの女主人ブレンダとの友情がいい。出会ったばかりの頃は、仕事や子育てに追われて余裕がなくて常に苛立っているブレンダでしたが、ジャスミンの優しさとちょっぴりお節介なところに癒されていく。こういう出会いもある、こういう家族のカタチもある、ジャスミンが紡いでいく人と人との絆に感動しちゃいます。

 

もちろんコーヒーも出てきます。もともとジャスミンのものだった黄色いコーヒーポットが、ある理由でカフェにたどり着くのですが、登場人物たちの会話や行動から察するにポットの中身はおそらくエスプレッソではないかと。説明過多ではないところもこの映画に素敵なところです。

 

 

恋に迷ったら『マイ・ブルーベリー・ナイツ』

仕事でも恋愛でも、悩んだときに寄り添ってくれる映画が誰にでもあると思います。この『マイ・ブルーベリー・ナイツ』もその1本です。ウォン・カーウァイ監督にとって初となる英語劇、グラミー賞に輝く歌姫ノラ・ジョーンズにとっては初の主演デビュー作、そして共演はジュード・ロウ、ナタリー・ポートマン、レイチェル・ワイズ。この組み合わせ、映画好きにはたまりません。

 

恋人の心変わりを受け入れられなくて、彼のアパートが見えるカフェに通うようになるエリザベス。カフェオーナーのジェレミーに話を聞いてもらい、気づけば彼との間に恋が生まれそう……になりますが、エリザベスは「道を渡るのに遠い“回り道”をしようと決めた」と旅に出ます。失恋を想い出にするには、時間と距離が必要だった、ということですね。

 

この映画にはカウンター越しのロマンチックなキスシーンが冒頭とラスト、2度登場します。これはカーウァイ監督に取材したときの言葉──「ラストのキスシーン、エリザベスの手の動きをぜひ見てほしい。その手がほんの少し動くのに、彼女は5000マイルの旅をしなくてはならなかったんだ」。コーヒーとブルーベリーパイと共に映し出されるラストシーン、本当にロマンチックです。

 

 

週末、おうち映画はコーヒーをお供に

映画の名シーンと1杯のコーヒー。週末はハンドドリップで美味しいコーヒーを淹れて、ゆったり気分で観てくださいね。発売中のmina11月号はコーヒー特集です。ぜひ、美味しいコーヒーの淹れ方を知って、おしゃれな映画と一緒に週末を楽しんでください。

 

 

◎文/新谷里映 ◎イラスト/moeko ◎撮影/川原﨑宣喜

MAGAZINE

mina 2024年6月号

COVER STORY

TO MEET THE GOOD SHIRT 私にぴったりのシャツを探しに。芳根京子

  • ◆ふたりでおんなじシャツを着る。
  • ◆これからもずっと着たい「偏愛シャツ」
gototop