2022.05.19

お笑いコンビ・かが屋インタビュー

加賀 翔さん・賀屋壮也さんからなるコンビ、かが屋。2015年4月に結成し、わずか4年後に『キングオブコント2019』決勝に進出した。コンビニバイトで出会ったふたりは、コント界の頂点近くまであっという間に駆け上がり、急激にメディア露出を増やす。だがその翌年、加賀さんの体調不良を理由に急遽活動を休止。8か月後の2021年3月、活動を再開した。

それから約1年が経ち、かが屋は今どんな想いで過ごしているのだろう。誰よりも“休むこと”の大切さを知っているふたりに、働き方や休日の過ごし方、そして”日常の一瞬を切り取るような”ネタのヒントを教えてもらった。mina本誌では掲載しきれなかった内容を含む、ノーカット版でお届けします。

 

 

——加賀さんが休養から復帰した際、若手芸人は働き過ぎなので「働き方改革をしたい」と言っていたのが印象的でした。実際、働き方は変わりましたか?

 

加賀:お笑いの仕事をたくさんしたいという想いがあるので、働き方に大きな変化はありません。でも、気持ち的にはだいぶ変わりました。「ここで揚げ物を食べ過ぎるとお腹壊すぞ」とか「睡眠不足だから乳液しっかり塗らないと肌荒れるぞ」とか、そういう不調の察知が早くなったというか。「しんどい、どうしよう」と思う前に対策を打てるようになりました。余裕があるときと疲れているときの波が無くて、起伏がなだらかというか。

 

賀屋:事務所やマネージャーさんと話して、今は週1で休みを取らせていただいてるんですよ。休みをちゃんと作っていただいてるのは本当にありがたいですね。本当は週2で休みが欲しいですけど……(笑)。

 

 

——お休みがあるとはいえ、忙しいことには変わらないですよね。オンオフの切り替えは得意なほうですか?

 

加賀:僕は全然ダメで、ずっとネタを考えちゃいますね。寝る直前まで、ずっとコントのこと考えちゃうんですよ……っていうとまた心配されそうですけど(笑)。集中モードになってるときは、むしろ気持ちが良いんです。「オフにしよう」とかじゃなく、別の行動を1個挟むことで自然と切り替えられるようにしています。音楽を聴く、良いにおいを嗅ぐ、お茶を飲むとか。

 

賀屋:僕も切り替えは下手くそですね。なんか……「ずっと休んじゃう」人ですね。

 

加賀:まるで「ずっと仕事のこと考えちゃう」みたいなテンションで、「休んじゃう」って言ってる(笑)。

 

賀屋:油断するとすぐ寝っ転がっちゃうんです(笑)。あとマイナスの気持ちを引っ張ってしまうほうなので、切り替えは得意じゃないですね。

 

加賀:本当に、賀屋は気持ちの切り替え下手ですよ。「なんか今日の賀屋は調子が悪いな」と思っていたら、実は弟と喧嘩してた……とか(笑)。仕事にも全部出ちゃう。

 

賀屋:そうですね。どっちかというと、僕は「隠せてる」と思ってたんですよ。自分の感情をあまり表に出さない、クールなタイプだと思ってたんです。でも全部顔に出てるらしくて、明らかに機嫌悪そうとか伝わっちゃうみたいです。同棲してる彼女にもよく言われます。「分かりやすいよ」って。

 

 

——自分ではクールなタイプだと思っていたのに、実際は表情で全部バレていたと。

 

賀屋:寡黙な人間だと思ってたんですけど、めちゃくちゃ表情に出てるらしい(笑)。それを最近自覚しました。今までは無自覚だったんで、自分でもよく分からず、なんとなく「今日調子悪かったな」みたいに終わることが多かったんです。でも最近は「今、自分はこういう気分なんだ」とか「こういう顔してる」とか向き合うようになりました。自分の気持ちに、折り合いをつけてやっていかないといけないタイプの人間なんだ、と分かって(笑)。

 

 

●最高の休日を過ごすために

——週1日のお休みは、どんな過ごし方をしているんですか?

賀屋:僕は、午前中に歯医者や整体の予約を入れるようにしてます。「充実した休日を過ごせている」感を出したいんですよ。なにも無いと昼過ぎまで寝ちゃうんで、朝に予定を入れてその後は彼女と過ごす、みたいな感じです。

 

 

——彼女さんとはどんな過ごし方をするんですか?

賀屋:散歩に行って、夕飯を早めに済ませて、夜は映画を観て……。

 

 

——最高の休日ですね。

賀屋:はい、最高の休日を過ごしたいんです。

 

加賀:やってることゴールじゃん、もう(笑)。

 

 

——散歩をしているときは、どんなことを話すんですか?

賀屋:近況報告とかではなく、「縛りしりとり」ですね。

 

加賀:彼女がちょっと年下だから、しりとりに付き合ってあげてるんだ?

 

賀屋:いや、僕から誘ってる。

 

加賀:やっぱり。そんな気はしたけど(笑)。

 

賀屋:「5文字で」「海に住んでる生き物で」「苗字で」……みたいな縛りを付けて。

 

加賀:一番良いですね(笑)。

 

賀屋:一番良いです(笑)。

 

 

——加賀さんはどんな過ごし方をするんですか?

 

加賀:僕は、撮影したり編集したりと、ずっとカメラの勉強をしてますね。水族館や動物園に行ったり、降りたことの無い駅で降りて撮影をしたり。先日は、皇居のお堀で白鳥をずーっと追っかけました。カメラを持って歩いていると、鳥の鳴き声に気付くようになるんですよ。「あれ!? チュンチュン聞こえる!……ってことはあっちに鳥がいるんじゃ?」って。それまでは“環境音”くらいに捉えてたけど、実際にそこに”鳥がいる”って気付いたんです。それから上を見て歩くようになって、高いところを見上げながら歩いてたら、そのまま後ろに転がって……。

 

 

——本当の話ですか?

加賀:本当です(笑)。

 

賀屋:めちゃめちゃバカじゃんか。

 

加賀:昔話みたいなことしてます(笑)。鳥追っかけて、転んで、メガネ落として「メガネメガネ……」って。ドジっ子カメラマン(笑)。

 

 

——カメラを持って歩くようになって、気付く世界が広がったんですね。

 

加賀:そうですね。カメラは将来を見据えてやってるところもあります。60、70歳になったとき、写真撮るのが上手かったらすごいモテると思うんで(笑)。孫や娘・息子に「おじいちゃんの撮る写真、ほんとに良いわ~」って言ってもらえたら良いなって。

 

賀屋:そのために、今はコケてでも勉強することが重要。

 

加賀:今のうちにやっておこう、ってことですね。

 

 

——最近は、花の名前を覚えたりもしているそうですね。

 

加賀:はい。僕はおじいちゃんになったとき、友達が作りにくいと思うんですよ。今は周りに芸人が多くて、めっちゃ面白い人に囲まれてるけど、普通に社会に出て働いてた人達には「ボケてツッコむ」みたいなものが通用しないと思うので……。そういうときに大事なのが、教養。スッと花の名前を言ったりしたらおばあさんにモテるだろうし(笑)。「この鳥の鳴き声はメジロですね」とか言ったら、「この人、昔はお笑いやってたけど意外と教養あって良いな」と思われる。そのための投資です(笑)。

 

 

——遠い未来に向けて教養を深めてる、と。

 

加賀:今モテるより、老いてからモテるほうが難しいと思うんで(笑)。

 

賀屋:年金みたいに、積み立ててるってことですね。

 

加賀:休日は「未来への投資」に使ってます(笑)。

 

 

●とにかくたくさんメモする

——ネタは、いつ作っているんですか?

 

加賀:作る日・作らない日を決めてなくて、僕は毎日書いてますね。ストレッチというか、歯磨きするくらいの習慣にしておくというか。休みの日だから作らない、とかはないです。そのくらいのテンションが僕には合ってますね。

 

 

——かが屋さんのコントは、他の人が見過ごしてしまいそうな“日常の一瞬”を切り取っているようなイメージがあります。なにか、普段から心がけている視点はあるんでしょうか?

 

加賀:「日常の何気ない瞬間を切り取っている」って言ってもらうことがよくあるんですけど、僕らとしてはそういうつもりは無くて。どうやってるの? って言われても、分からないというか……。でも僕、めちゃくちゃメモするんですよ。面白いと思ったことだけじゃなくて、ちょっと気になることがあったらメモします。例えば、「みんなが立ってて、誰かが座らないと座れない雰囲気になってる」みたいなことあるじゃないですか。そんなの「聞いてよ~!」ってわざわざ話すような、面白いシチュエーションではないですよね。でも、そういうのも「一応メモしておこう」みたいな。ネタ作りは「とにかくいっぱいメモする」に尽きますね。だから、日常の一瞬を切り取ってるみたいに見えるのかな。

 

 

——賀屋さんは、どういうところからネタを思いつくんですか?

 

賀屋:前までは「これネタにできるぞ」みたいなことを探してたんですけど、それより「ふと気にとまったこと」のほうが良いなと思って。自分が笑ったかどうかではなく、気になったことをメモしてます。例えば、以前エレベーターに清掃員の方が一緒に乗って来たことがあって。その方が、雑巾でエレベーターの汚れを拭いてたんですよ。多分自分の持ち場ではないけど、たまたま雑巾持ってたから拭いた、みたいな。そういうの見て「めっちゃ良いな」と思ってメモしました。それはまだ、ネタとして形にはなってないんですけどね(笑)。

 

 

——2021年7月にネタ専用のYouTubeチャンネル『かが屋のオフィシャルコントch かが屋文庫』を作って、今は週2本ネタをアップしていますよね。かなり高頻度に感じますが、大変ではないですか?

 

加賀:前に比べたら慣れましたね。「気持ちの整理がついた」っていうんですかね、向き合い方が分かってきたというか。前は出来に納得がいかなかったら、ひとつのネタを何度も撮り直してたんです。でも今は、僕から「撮り直しましょう」って言うことは無いですね。

 

 

——ネタの完成度に、妥協点が見つかったということですか?

 

加賀:キリ無いので、こだわり過ぎてしまうと無理ですね。YouTubeだからこそ「こういうネタは絶対ライブではやらない」みたいなことも、普通にできるようになりしました。

 

 

——チャレンジネタ、みたいなことですか?

 

加賀:そうですね。ライブだったら絶対やらないけど、YouTubeだったらできるかもみたいな。前は舞台でやっているストックネタを出さなきゃと思っていたけど、「もうYouTube用に新しく作っちゃうほうが早いわ」と思って。本当はライブでも全部新ネタやりたいんですけど、それはなかなかできないので……。

 

 

——すごいストイックですね……!

 

加賀:いや、全然そんなことないです(笑)。

 

 

——賀屋さんは、隣で加賀さんを見ていていかがですか?

 

賀屋:「僕が不真面目に見えないかな?」と不安ですね。

 

加賀:主観しかないじゃない。もっと客観的に見てくれよ(笑)。

 

賀屋:加賀くんは多分、「特別なことをしよう」と思ってるわけではないんですよ。「あるべき姿」というか、「こういうふうになりたいからやってる」というか。なんて言うんだろう……。前は、加賀くんに本をおすすめされても読まなかったりしたんですけど……。

 

加賀:そうそう。ハマると思ってるからオススメしてるのに、無視するんです(笑)。僕からではなく、別のルートから辿り着きたいというか。僕に対抗心みたいなものもあったと思うんですけど、最近は丸くなってきて(笑)。

 

賀屋:そう、そうなんですよ。「僕も立派な人間だぞ」と思われたいし、自分でもそう思いたかったんです。だから昔は「自分で見つけるし」とか思ってたんですけど、今は「面白いものは面白い」と思えるようになりました(笑)。

 

 

●思い入れのある会場で、念願の単独ライブ

——5月に単独ライブ『瀬戸内海のカロ貝屋』を開催予定です。2020、2021年は開催していないので、大勢のお客さんの前で単独公演をやるのは3年ぶりになりますね。

 

加賀:そうですね。前回の単独ライブは300人規模の劇場だったんですけど、今回は500人入る大きな劇場でやるんです。いや~、すごく緊張してますね。無意味に会場の『草月ホール』に行ったりしてます(笑)。草月ホールは、思い入れの深い劇場なんですよ。マセキ芸能社に入ってすぐ、バカリズムさんの単独ライブの手伝いをさせてもらったんですけど、それが凄くて。本当に感動したんです、面白過ぎて。「いつか草月ホールでやりたい」と思っていて、やっと叶うことになりました。良いもの、心に残るものにしたいですね。

 

 

——本番まで、もうすぐですね(取材は4月中旬)。

 

賀屋:……! その、さらっとした「もうすぐですね」という言葉に僕は引っかかってしまいます(笑)。

 

加賀:(笑)。賀屋が汗かかないかなぁと心配ですね。

 

賀屋:そうね、5月の終わりは、僕にとっては夏ですから。僕、公演中にめっちゃ汗かいちゃうんですよ。それがネックで。だから、汗をかくことに慣れておこうと思って、最近はいっぱい汗をかくように生活してるんです。自分がどのくらいの気温で、どういう動きをしたら汗が出るのかを分かっておこうと思って……。

 

加賀:(舞台が)パッと明るくなったときに「はぁ、はぁ……」みたいな状態のことがあるんで(笑)。本番までに、心肺トレーニングを積んでおいてほしいですね(笑)。

 

 

第3回かが屋単独ライブ『瀬戸内海のカロ貝屋』

東京公演:5月27日(金)~29日(日)草月ホール
大阪公演:6月4日(土)~5日(日)ABCホール

▶︎公演に関する詳細はこちら

 

 

PROFILE

かがや●左:加賀 翔(かが しょう)岡山県生まれ。右:賀屋壮也(かや そうや)広島県生まれ。2015年結成。公式YouTube『かが屋文庫 かが屋のオフィシャルコントch』に週2本コントを投稿。RCCラジオ『かが屋の鶴の間』にレギュラー出演中。昨年11月には加賀の初小説『おおあんごう』が出版された。

加賀 翔 公式Instagram

賀屋壮也 公式Twitter

公式YouTube『かが屋文庫 かが屋のオフィシャルコントch』

 

 

◎撮影/川原﨑宣喜 ◎取材&文/堀越 愛

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TO MEET THE GOOD SHIRT 私にぴったりのシャツを探しに。芳根京子

  • ◆ふたりでおんなじシャツを着る。
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